ヒロシマの心を世界に [春宵十話]

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『卍 (まんじ) とハーケンクロイツ』・その2 ――反ユダヤ主義の二本柱――

『卍 (まんじ) とハーケンクロイツ』・その2

――反ユダヤ主義の二本柱――

ルターとワグナーも反ユダヤ主義者だった

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《反ユダヤ主義の二本の柱》

皆さんにも是非お読み頂きたい『卍 (まんじ) とハーケンクロイツ』 (中垣顕實師著、2013年、現代書館刊) の紹介・後編です。

前回は、ヒトラーがナチスドイツのシンボルとして選んだのがハーケンクロイツだったという歴史を辿りました。

その旗印の元、ヒトラーが現実に行った悪行中最悪のものは、ユダヤ人の虐殺でしょう。ユダヤ人の他にも性的マイノリティやロマ、その他の非キリスト教信者、社会的弱者と呼ばれていた人々等々も含まれていますが、主要な対象はユダヤ人でした。

それはヒトラーの考え方の中心に反ユダヤ主義があったからです。以下、中垣師の著書は博士論文が元になっていますので、かなり複雑なのですので、論理関係と構成をちょっぴり無視して、分り易さを前面に出して、反ユダヤ主義の柱として二つの事柄を掲げています。

柱の一つはキリスト教を正当な宗教だと考え、ユダヤ教を邪教と捉えた上でユダヤ教とその信者を排除すべしとする考え方です。これは宗教的に面での反ユダヤ主義と特徴付られます。そしてこの面で、ヒトラーとナチス・ドイツに大きな影響力を持ったのが、宗教改革で有名なマルティン・ルターです。

二つ目は、アーリア人種という (ここは分り易くするために単純化した議論にしていますが)、 理想的な人種とでも言える架空の存在を作り上げ、ドイツ人こそが、そのアーリア人種の正当な後継者であることをヒトラーは掲げています。人種としては勿論のこと文化的・社会的活動やその成果も全てアーリア人が優れていることが主張されます。その上で、そのアーリア人を汚す存在として、またアーリア人の最大の敵としてユダヤ人を位置付け、ユダ人に対してあらゆる面で勝利することを正しい解決策だと主張するのです。これは、世俗的なレベルでの反ユダヤ主義ですが、総合芸術とも称されるオペラのシンボル、リヒャルト・ワーグナーの反ユダヤ主義も大きく影を落としています

《ハーケンクロイツは十字架の一種》

私自身、ハッとさせられ、そして恐らく多くの人が気付いていない点として、ハーケンクロイツの中に十字架が埋め込まれていることを挙げておきたいと思います。十字架の一種だとさえ言えるのです。キリスト教が正当な宗教であり、そのキリスト教を守るためにユダヤ教を消滅させなくてはならないと考えた人たちがいたという事実に、私たちはあまり注意を払ってこなかったのではないでしょうか。ホロコーストの宗教的側面です。その点も含めて、著者の中垣氏はあとがきで次のようにまとめています。

  • おわりに

副題の「卍に隠された十字架と聖徳の光」は、特に私が力を注いだ部分であり、本書の特徴を示そうと試みた。ハーケンクロイツはドイツ、ヨーロッパにおいて長い十字架の歴史を持ち、卍は聖徳の意味で、日本、東洋において長い仏教の歴史を持っている、ということが本書を通して理解してもらえたと思う。ユダヤ人大量虐殺に結びついたヒトラーの十字架により、東洋の卍•生は大きな打撃を被り、本質的に別のシンボルであるにもかかわらず、未だにその違いをはっきりと指摘した本はなかった。ただ卍とハーケンクロイツの方向が違うとか、ブラックマジックだとか表面的なものが多く、本質的な部分に及ぶ論議がなされていなかったのである。卍に十字架が埋もれていることが見えない限り、ヒトラーの反ユダヤ主義が明確にはならないし、私が最も力を注いだのが、この隠された十字架を引き出し、あらわにすることであった。

さらにヨーロッパ中心の歪んだアーリア人の理解が加わり、仏教の本来のアーリアンの意味が損なわれたことで、この問題はただ西洋の問題だけではなく、東洋の問題にもなってくるのだが、この部分に関しても今まで論議している本はあまりなく、私なりの論理を進めていくこととなった。

《卍の復権は可能か》

本書で中垣師が目指しているのは、卍の復権なのですが、完全な復権は難しいにしろ、どんな筋道で復権が始まるものなのか、考えてみましょう。

ここで問題になるのは、「ホロコースト」があまりにも重い体験であるために、それ抜きにハーケンクロイツというシンボルを扱うのはほとんど不可能だという現実です。シンボルだと言っても、その背後の現実抜きでは論じられないのです。

ハーケンクロイツはホロコーストを引き起こした加害者のシンボルだという事実があり、非常に強いネガティブな感情を引き起こさない形で卍を見ることはほとんど不可能だということなのです。形としては同じなのですから、「別のものなのだ」と、すんなり受け入れるにはかなり難しい心理操作が必要になるのです。

それと表裏一体の関係にあるのが、ヨーロッパでは未だにハーケンクロイツやナチスを想起させるシンボルは使用が禁止されていることです。これも重要です。

結論としては、抽象的なことになり、即座に効果が現れるとは考えられませんが、中垣師が本書で訴えていることになります。それは私たちが卍についての理解を深めることです。そして例えば、日本を訪問する外国の人たちに、卍の意味を伝えられるように勉強をしておくこと、寺社等の施設に卍の英語での説明を付け加えること等です。そういった地道な努力でハーケンクロイツとは違う存在としての卍があるのですよということを、多くの欧米人の、少なくとも頭の中で、相対化して理解をして貰うことから始めましょう。

最後に本書をもっと多くの人に読んで貰うための小さな提案です。博士論文が元になっているのが本書の特徴ですし、そのために学術的な面から大変貴重な書物になっています。でも、普通の読者には、例えば原典を引用しての比較等はなくても良い部分だと思います。さらに、構成としても著者の辿った調査と研究の道に沿っての記述ではなく、普通の読者の好奇心に沿う形を取った方が読み易くなるような気がします。

最後の一段落は、不必要かもしれませんが、より多くの皆さんの許に届くよう、一般向けのもう少し短い入門書を出して頂けないかという思いとともに申し上げました。

 

様にとって今日という一日が、良き日になりますようお祈りしております。

[2026/6/1   人間イライザ]

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