ヒロシマの心を世界に [春宵十話]

核のない平和な未来を創るために

「広島・長崎講座」を国の責任で ――被爆の実相と被爆者のメッセージを永遠に残すために――

「広島・長崎講座」を国の責任で

――被爆の実相と被爆者のメッセージを永遠に残すために――

被爆体験の「ディジタル化」とは

 広島ブログ

ブログ激励のために、上のバナーをクリックして下さい

 

さて準備に時間が掛りましたが、「広島・長崎講座」について、詳しく説明しておきます。『数学教室』に連載して頂いていた「The Better Angels」というコラムの第135回、2024年1月号に掲載して頂いたものです。長くなりますので、二回に分けます。

 

******************************

広島・長崎講座を国の責任で

――被爆の実相と被爆者のメッセージを永遠に残すために――

『数学教室』連載2024年1月号・「The Better Angels」第135回

秋葉忠利

 

《時間軸と空間軸》

被爆者の平均年齢が85歳を超え、被爆者団体を初め広島市長崎市、そして平和運動に関わっている団体や個人が、危機感を抱いています。被爆の実相と被爆者のメッセージを「継承」するための様々な努力が続けられたり、始められたりしています。(以下、「被爆の実相と被爆者のメッセージ」を「被爆の真実」と略します。)

こうした試みが貴重であることは言を俟ちませんし、「多々ますます弁ず」とも言われますので、新しい視点からより多くの活動が起きてくることを願っています。同時に、こうした活動を全体として捉え、整理しておくことも大切です。

そのための手掛かりとして、良く使われる基準である「5Wと1H」、つまり、「Who, What, Why, When, WhereそしてHow」を採用します。「被爆の真実」の場合、「Why」は明らかです。ここでは、「二度と同じ思いを繰り返させないため」そして「人類が生存し続けるため」とまとめておきましょう。

次に大切なのは、何を、誰が、誰に、どの様に、なのですが、その答を考える上で、「When」と「Where」を、時間軸と空間軸をどう設定するのかという問いかけとして使います。その方が、より具体的な発想につながるような気がするからです。

 

《アナログとディジタル》

一例として、広島市の「被爆体験伝承者養成事業」を取り上げましょう。被爆者が高齢化し、やがては「被爆体験証言者」がいなくなるのは自然の摂理ですので、それを引き継ぐ活動をする人を養成するのは合理的ですし大切です。被爆証言者から「被爆体験の伝授」を受けて、被爆体験を語り継ぐのですから、被爆者の「思い」を伝える上での大きな役割が期待できます。

人に何かを伝える上で、「情理を尽して」という整理をするなら、「情」の部分ではこのような取り組みが重要ですし、それを今後も続ける努力が大切なことは言うまでもありません。このような形で語り継ぐ以外には、例えば、ビデオに収録したり、芸術的な表現に頼ったりすることが考えられます。でも、生身の人間を通しての伝承の力には他では代えられない意味があるように感じます。

それと同時に、「情理を尽す」ことに戻って、より客観的な枠組みの中で「被爆体験伝承」という活動を考えて見ましょう。これは、この大切な事業の批判ではありません。今以上に情熱を込めて関係者の皆さんには頑張って頂きたいですし、私もできる限りの応援はする積りです。その前提で、さらに視野を広げると何が見えて来るのかが大切なのです。

さて現在、「被爆体験伝承者」として活動されている方々も高齢化しますが、その活動をどう継承することになるのでしょうか。今の時点の「伝承者」が、次の世代の「伝承者」を育て自分の体験を「伝授」して、活動を引き継いで貰うという可能性が考えられます。

時間軸も長く取って、数十年単位で考えるとどうなるでしょうか。「伝授」という手続きを何回か繰り返して「伝承」を続けることになる訳ですが、その結果として元々の被爆者の「思い」がどのくらい伝わるのでしょうか。これも批判しているのではありません。客観的事実の確認をするという視点からの問い掛けです。

このようなアナログ的な方法に限界のあることは皆さんも経験されているのではないでしょうか。昔のビデオで録画した画像も音声も、ダビングするごとに劣化して、やがては縦に筋の入った画像になってしまいます。アナログで手法では他の場合でも、それと同じ結果になりはしないのでしょうか。時間軸を考えて、できるだけ長い間元のメッセージをできるだけそのまま伝えることを一つの目標として掲げるのなら、短期的には効果のあるアナログ的な活動を補完する、劣化することのない「ディジタル化」を挙げても良いのではないでしょうか。

以下、その説明なのですが、その前にもう一点、「空間軸」も視野に入れておきましょう。「被爆体験伝承」は口頭で行われますので、使われるのは日本語です。でも被爆体験を伝えたいのは、全世界へです。他の言語への翻訳も必要ですし、「悪のパールハーバーを、善の原爆が懲らしめた」といった図式で原爆を捉えている多くのアメリカ人に伝えるには、ただ、被爆体験を淡々と伝える以上の努力が必要になります。こうした点も考慮に入れての「ディジタル化」でなくてはなりません。

 

《広島・長崎講座--知的な伝達と体系化》

ここで「ディジタル化」の具体的な姿として、「広島・長崎講座」と銘打った学問体系を作り、世界の主要大学で、若い世代に「被爆の真実」を伝えることを考えています。その基礎として、被爆の実相と被爆者の「他の誰にも同じ経験をさせてはいけない」というメッセージの意味を学術的に整理・体系化し、普遍性のある学問として創造することが必要です。さらに、学問としてだけではなく、「情」に訴える側面の追及も同時進行で行うべきだと思います。

こうした講座が達成すべき目標が何かについてもここで整理しておきましょう。

 

① 被爆体験をこのような形で「ディジタル化」する。その結果として、未来への「劣化しない」伝達を行うこと。

② 世界的に、ホロコーストと同じレベルでの理解が共有されること。

 

「劣化しない」知的体系のイメージとして多くの人の頭に浮ぶのは、ユークリッド幾何学ではないでしょうか。皆さんも中学や高校で勉強したはずですし、今は教える立場から付き合っている科目です。その中で、例えば「三角形の内角の和は180度である」は、何千年経っても変らぬ事実として伝え続けられてきました。

被爆体験は、公理化できるほど単純な存在ではありません。被爆者のメッセージも字面だけが伝われば良い言葉ではありません。しかし、その全部を一度にとは言いませんが、多角的に記述し、少しでも客観的に整理する努力を続けなくては、残るものも残らなくなってしまいます。その結果は、アメリカの哲学者、ジョージ・サンタヤーナの言葉を借りれば、「過去を記憶できないものは、その過去を繰り返す運命を背負わされる」のです。

「客観的に整理する」とは、「被爆の真実」を「学問化」すると言い換えても良いでしょう。大変大きな存在ですので、その姿を浮かび上がらせるためには、ある側面に焦点を合わせて、それを合体させるという手法が有効かもしれません。そのために、いくつかのキーワードを援用して、ある側面を少しずつ削り取ってみることにしましょう。

「思想化」、「体系化」、「理論化」、「科学化」、「モデル化」、「専門化」、「形式化」、「論理化」、「数値化」等の言葉が頭に浮かびます。その前提としては、被爆した物や建物、遺構等の「事実」を劣化しない状態で後世に残し、「事実をもって語らしめる」必要があることは当然です。

ホロコーストと同じレベル」の理解についても、かつての天動説が当り前だった時代の地動説と同じように、世界中の多くの人の頭の中では意識にさえ上って来なかったのではないでしょうか。まず今、世界のどの国をとっても「我が国の安全保障のために、ナチス並の強制収容所が必要だ」との公言など絶対にできません。

しかし、「わが国の安全保障のために、広島・長崎より強力な核兵器が必要だ」と、主張し実行している国は、少なくとも9か国あります。それも、世界の主要な国々と言って良いところばかりです。「広島・長崎より強力な」という言葉は明示的に差し挟んではいませんが、現実はその通りなのですから、これが彼らの本音です。

被爆の真実」が、世界の主要国の指導者たちの骨の髄まで伝わっていたとしたら、つまり、被爆者と同じレベルでの痛みを感じていれば、こんなことにはならないはずです。そして、そんな状態を許しているのはそれぞれの国の国民・市民の理解レベルが同じレベルかそれ以下だからです。

「本当は分っているけれど、一国の指導者になれば、自分の価値観とは違う行動を取るのは仕方がない」といった、現実的な解釈もあり得るのですが、大きな違いは、ホロコーストについてはこんな解釈さえ成り立たないという点なのです。

******************************

 

まだ続きますが、次回もお読み頂ければ幸いです。

 

皆様にとって、きょう一日が素晴らしい24時間になりますよう!

[2025/8/20     人間イライザ]

[お願い]

文章の下の《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。

広島ブログ